事業承継 あるじの伝書

新しい事業承継の形 ‘‘サーチファンド’’の解説から事例までをご紹介

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サーチファンドとは

一般的なバイアウトファンドは、投資家から集めた資金を元に、複数の企業の買収を行い、投資先の経営に深く関与して株式価値を向上させ、保有する株式を売却することによってリターンを創出、投資家に利益を還元します。

一方、サーチファンドでは、買収資金を集める前に投資家から企業を探すための活動資金を集めて、有望な買収先企業を探します。有望な企業が見つかれば、投資家にプレゼンテーションを行い、本格的に買収資金を出してもらいます。このように先に買収先企業のサーチ活動があることから「サーチファンド」と呼ばれています。このサーチファンドを新設し、サーチ活動を行うのは、買収により会社のオーナー兼経営者になることを目指している個人(以下「サーチャー」と言う)であることが多く、1つの企業買収で完了となります。

サーチファンドの投資対象は、最先端のA I企業やバイオ企業などのベンチャー企業ではなく、いわゆる「歴史のある中小企業」に可能性を見出し、企業の大きな成長の実現や事業拡大を目指します。

一般的に、地方で事業を行っている中小企業では、資金力等に限界があるため、なかなか経営のエリートを集めることは容易ではありません。しかし、雇われるのではなく、オーナー兼経営者になるとなれば、これまで見向きもされなかった企業が、優秀で野心のあるエリートを惹きつけることができる可能性が拡がります。

ここにサーチファンドが日本の後継者問題の解決に寄与する大きな理由があります。

サーチファンドが注目される背景

なぜ、今サーチファンドが注目されているのでしょうか。

東京商工リサーチが実施した「2020年1-10月『後継者難』の倒産状況調査」によると、後継者不足に起因する倒産件数は301件と調査開始以降で過去最多となっています。これは、コロナウイルスにより経営が難しくなったこともありますが、後継ぎ問題が解決していなかったところにコロナウイルスの流行が重なったためと考えられます。

一方でマイナビが実施した「2020年版 独立・開業に対する意識調査」によると40%を超える人が独立や開業に関心を持っています。

仮に、独立・開業に興味を持っている人材と、後継者問題を抱える企業を巡り合わせることができれば、後継者不足による倒産企業が減少していくことが期待できます。

その一つのアプローチがサーチファンドです。
では、サーチファンドが注目される理由を、サーチャーの立場と、買収資金を出す投資家の立場で考えてみましょう。

経営者になる新たなアプローチ

今までは、会社の経営者を目指す方法は出世競争を勝ち抜くか、起業するしかありませんでした。
出世競争を勝ち抜くには努力と運、ライバルの動向などさまざまな要因が絡むため、「必ずなれる」ものではありません。

また、ベンチャー企業として独立する方法もあります。
しかし、ベンチャー企業を経営するには、VCなどの支援を含めた資金力や、世の中に新しいサービスや製品を生み出すことが得意な同志と組む、または自分自身で創出する必要性があります。
また、起業はゼロから創り出さなければならないので、時間や労力を必要とする一方で、上手くいくとは限りません。日経ビジネス(2017/3/21)の調査によると、創業20年後の生存率0.3%と非常に厳しい世界です。

このように、不確定要素やリスクが大きい2つに加えて、経営者を目指す方法として新しく登場し、今注目されている形がサーチファンドです。

サーチファンドでは、既に経営実績がある企業を買い取り、既存顧客のフォローしながら、すでにある技術や製品、サービスの拡大を担うと同時に、自分のスキルや経験を活かした経営をすることができます。

個人で資金調達や買収候補企業を探すには労力やコストがかかります。サーチファンドであれば、サーチ費用と買収資金を調達することが可能です。欧米ではすでに大きな成功事例もあり、MBA取得者などが起業以外の選択肢として活用されています。

投資家にとってのメリット

では、具体的にサーチファンドはどのようなメリットがあるのでしょうか。
前途したように、経営者になろうと思っても買収候補企業を探すには時間と労力、費用が必要です。

サーチファンドでは、最初にサーチ費用という比較的少額の資金を出すことで、その先の買収・企業価値向上に向けた投資のチャンスを得ることが可能です。買収の実行に当たってはサーチャーからプレゼンテーションが行われ、その内容を踏まえ、リスクを最小限にした状態での、意思決定が可能です。サーチャーにとっては、1つの買収先を探すことに注力するので、確実性があります。

一方、地方の有力取引先を持つ地方銀行にとって、後継者不足問題を抱える取引先の継続性を維持することは重要課題です。実際に後継者不足の解決策として、サーチファンド事業のパイオニアとも言われる、山口フィナンシャルグループは、地方銀行が資金の出し手となって設立されました。近年では、大手企業もサーチファンド事業に乗り出しています。

山口フィナンシャルグループの事例

2020年2月に日本で初めてサーチファンドを実現させた、山口フィナンシャルグループ(以下:山口FG)の事例を紹介します。

北九州を拠点とする、株式会社塩見組(土木事業)は毎年10億~20億の売上高を出しているものの、親族に会社を引き継ぐことのできる人材がおらず、後継者不足で悩んでいました。
そこで、当時の代表取締役社長の末吉氏は、先代から引き継いだ会社と従業員を守るために事業継承することを決意。

一方、サーチファンドを画策していた山口FGでは、事業承継に関心を持っていた渡邊氏が設立した個人企業「ミード・ストリート株式会社」に出資を行います。

渡邊氏は塩見組が持つ、「大型の杭打ち工法を」採用した工事技術に将来性を感じると同時に、社長の末吉氏が、経営状況を包み隠さず話す姿勢に信頼を得られたことから、塩見組の全株式を取得して社長に就任すると同時に末吉氏は取締役会長に就任しました。

その後も山口FGでは次々とサーチファンドの成功事例を発表しています。
例えば、広島県出身で地元の活性化に貢献したいという想いを強く持っていた横山氏は、広島県福山市にある基幹産業で創業65年、約100名の雇用を有する鉄工関連企業の事業継承を成立させました。

また、デトロイトトーマツコンサルティングで、製薬・商社・建設で戦略策定や業務改革経験のある伊藤氏は、広島県広島市に本社を置く株式会社キャスリンクの事業継承を成立させました。
伊藤氏は自身の経験とノウハウを持つ経営管理や営業面を強化することで、同社を成長させることに成功しています。

最近では株式会社日本M&Aセンターと共同で、山口FGの主要営業エリア以外(岡山県)で事業継承を成功させています。

最後に

「経営者になりたい」「後継者不足倒産を避けるため、誰でもいいから譲りたい」と思っても、経営者の皆さまが全身全霊で築き上げてきた会社は、モノではありません。会社には顧客、従業員、取引先などの生活もあります。
また、企業には長い時間かけて得た技術やノウハウ、企業文化があります。

後継者候補が不在な時も「会社の売却による事業承継」「廃業」といった選択肢以外に、「サーチファンド」という選択肢もあります。
「長年、会社を支えてきてくれた顧客、従業員、取引先といった利害関係者の皆様にとって何かハッピーエンドなのか?」各方面の専門家の意見も聴きながら、後悔のない決断を模索してみてはいかがでしょうか。

当記事を最後までお読みいただきありがとうございました、お読みいただいた方の中には、事業承継を真剣に考えている経営者の方もいらっしゃるのではないでしょうか?後継者不足を抱える企業向けにはさまざまな企業がサービスを展開しております。
会社のあるじの運営企業では、「あなたの後継者」というサービスを提供しております。こちらは、経営者の皆さまが全身全霊を掛けて育ててきた会社はモノではないという考え方から、経営者の皆さまが安心して事業を託すことのできる後継者または後継者候補を紹介しております。後継者不足や事業承継にお悩みの経営者様の相談窓口として活用してみてはいかがでしょうか。

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