生産性向上 あるじの伝書

Googleが提唱する「心理的安全性」は日本企業でも生産性向上に有効か

心理的安全性の画像あるじの伝書

従業員のヤル気と自発性を高めるとされる「心理的安全性」に注目する会社が増えています。
聞き慣れない言葉ですが、Google社の大規模な業務改善プロジェクトが「チームの生産性を向上させるには職場に心理的安全性が確保されていることがもっとも重要だ」と結論したことから、日本の経営者にも注目されるようになりました。

新奇な経営思想はいつもアメリカからやってくる、と食傷ぎみの経営者もおいででしょうが、カタカナ用語で埋め尽くされた米国発の経営学とは趣きが違い、この主張には日本の経営者の心にも響く説得力があります。
納得するかしないかは別として、常識で判断できる平明さがあります。

この記事では、今話題の「心理的安全性」とはどのようなもので、なぜそれが社員のパフォーマンを高め、生産性を向上させると言われるのかをご紹介します。
「我が社でも役に立つのか?」という視点でお読みいただければ幸いです。

社員のパフォーマンスを委縮させる「4つの不安」とは

職場の心理的安全性とは、社員が安心して仕事に打ち込める心理状態のことです。この安心を損なうものとしてGoogleは「4つの不安」をあげています。

自分が無知・無能・邪魔・ネガティブだと思われたくない

4つの不安とは、自分が職場で「無知」「無能」「邪魔」「ネガティブ」だと思われるのではないかという不安です。

  1. 疑問点があるが、こんなことを聞いたら無知だと思われるのではないか
  2. チャレンジしたいことがあるが、もし失敗したら無能だと思われるのではないか
  3. 下手に手出しや口出しすると、邪魔だと思われるのではないか
  4. 提案に問題があると思うが、それを言うとネガティブな奴だと思われるのではないか

こう書くと「おるおる、我が社にも。そんなことを心配してオドオドしている気の弱い社員が」と思う経営者もおいでになるでしょう。
しかし、これを社員の気の弱さと考えてしまうと、この話はそこで「終わり」になってしまいます。

Google社のプロジェクトに参加するようなエリート社員でも、無知や無能だと思われるリスクは冒したくありません。
弱みを見せるとなめられる競争社会アメリカのエリートだからこそ、この4つの不安は大きいとも言えます。

4つの不安はどんな職場に生じるのか

このような不安は、無知や無能、ネガティブだと思われることが「処罰」を招く可能性があるリスクになる職場で生じます。

アメリカなら、プロジェクトから外されるとか、クビになることもあるかもしれません。日本なら、昇進が遅れる、同僚からバカにされる、経営者に無視されるなどが本人にとって重い「処罰」になります。

心理的安全性がある職場とは、無知や無能だと思われるリスクを冒しても処罰される心配がない職場です。言い換えれば、忖度せずにものが言えて、余計な心配をせずに仕事に打ち込める職場です。

心理的安全性がないとなぜ生産性が低下するのか

心理的安全性がなく、無知や無能だと思われたくない気持ちが強いと、なぜ職場の生産性が低下するのでしょうか?

格好つけやアリバイ作りの仕事が増える

心理的安全性が確保されていないと、人は次のような行動をとりがちです。

  • 自己印象操作 : 人から見た自分の印象を気にして、それを操作しようとする
  • 自己呈示行動 : 実際の自分を美化して語る、虚勢を張る、相手に気に入られようと取り入る

仕事をすることよりも、したように見えることを重視する社員が増えたら、その職場の生産性が低下するのは言うまでもありません。
ミスを隠して会社に重大な損害を与える可能性すらあります。

Googleが指摘する「効果的なチームに共通する5つの特徴」

Googleは生産性が高い効果的なチームの特徴として次の5つを挙げ、1の心理的安全性は他の4つの基礎になるとしています。

  1. 心的安全性が確保されている
  2. 相互信頼がある
  3. 何をすべきかが明確に意識されている
  4. 仕事に意味を見出している
  5. 会社に貢献しているという意識がある

2の相互信頼も生産性を上げるためには欠かせない条件です。同僚に自己印象操作や自己呈示行動が多いと、そのチームに信頼関係は育ちません。

3~5の、明確な目標、仕事の意味の自覚、会社への貢献意識も、心理的安全性をベースにした良好なコミュニケーションによって生まれるものだと言えます。

秀吉が実践した効果的なチーム作り

作家の童門冬二氏が紹介している豊臣秀吉の「清洲城の塀修理」の逸話は、上記のGoogleの効果的なチームの5つの特徴に共通するもがあります。

秀吉はちっとも進まない塀の修理工事を早めるために、人夫たちをまず10のチームに分けて、次のような働きかけをしました。

  1. 人夫に親しく語りかけて、のんびり仕事をしている理由を聞く(心理的安全性)
  2. 仲の悪い同士を違うチームに配属する(相互信頼)
  3. チームの担当する区画を決める(仕事の明確さ)
  4. 戦が近いと修理を急ぐ理由を説明する(仕事の意味)
  5. 主君信長に仕事の早いチームにボーナスを出すと約束させる(貢献意識)

心理的安全性を高めるための中小企業の社長の役割

職場の心理的安全性を確保するためには、経営者の役割が重要です。とくにすべての社員と直接接することの多い中小企業では、経営者が決定的な役割を果たすと言ってよいでしょう。
職場に心理的な安全性があると、パワハラなどのコンプライアンスの問題も多くは解消します。

アメリカのBOSSと日本の経営者の違い

Googleは、心理的安全性を高めるためにリーダーには次のような姿勢が求められるとしています。

  1. 話を聞くときは体を乗り出すまたは、相手の方に顔を向けるなど積極的な姿勢を示す
  2. 気づかぬうちに苦い顔や不愉快そうな顔をしない
  3. 一対一で話すなど相手を受け入れる姿勢を示す
  4. 人の話を妨げない。妨げようとする人をたしなめる
  5. 自分と別の意見がある場合は、反論したり異論を唱えるように促す。自分の弱みを見せる

これを読むと、対人関係で相手の気持ちを推し量ることが苦手な強面のアメリカのBOSSには必要な注意だが、日本の経営者ならわざわざ言われるまでもなく気をつけているという気もします。

しかし、日本の経営者にも「私もときどきその反対をやっているな」という人もいそうです。社員が「4つの不安」におびえながら体裁をこしらえる仕事の仕方をするか、恐れずに言いたいことを言って自由闊達に仕事をするかは、経営者の社員への言葉使いや接して方で決まると言っても過言ではないでしょう。

心理的安全性があればパワハラ事案は発生しない

パワハラ問題の難しさは、言う方は「業務上の指導」のつもりでも、言われる方は「人格的侮辱」と受け取ることです。

この誤解をなくすには、言ってはいけないフレーズを集めたガイドラインなどは役に立ちちません。
しかし、職場の全員に「言うべきことは言うし、分からない点は確認する」という心理的安全性が確保されていれば、言われたことに対しても権威的な押し付けとは受け取らず、その内容を冷静に受け止めることができます。

まとめ

日々接する社員が、対人関係でリスクのある発言をしたくないという、内に閉じこもる心理状態にあるのでは、仕事パフォーマンスの質は向上しません。
人員が潤沢ではない中小企業だからこそ、従業員が自分でエンジンを持って動けるような「心理的安全性」のある職場を目指してみてはどうでしょうか?

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