2015年に株式会社AI Samuraiの前身である株式会社ゴールドアイピー発足以来、日本の知財界を牽引する特許審査シミュレーションシステム“AI Samurai”を掲げ、目覚ましい活躍とともに、めきめきと名を馳せてきた会社が 株式会社AI Samuraiである。
2019年には「JEITA」ベンチャー賞やグッドデザイン賞を受賞するなど、今や名実ともにトップをひた走る当社を率いるのは、元防衛大出身の弁理士であり、国内大手メーカー勤務の後に特許業務法人を設立、米ナスダック上場企業の経営を兼任し、今や国家試験知的財産管理技能検定委員や経済産業省Healthcare Innovation Hubアドバイザーをも務める白坂一氏(代表取締役社長 CEO)。今回は1人の経営者として、そして日本の未来を切り開く“侍”として、その胸に抱く想いを、会社のあるじ川端がインタビュアーとしてお話しを伺ってみました。
転機となった大地震
川端:初めまして!記念すべき第1回から、今まさにIPOを目指し成長企業である、白坂社長にお話をお聞きできることになり緊張しております…本日はどうぞよろしくお願いいたします!
白坂:いやいや(笑)よろしくお願いします!
川端:株式会社AI Samuraiの経営者として、日本の知財AI事業を牽引する白坂さん、元々は防衛大学のご出身でいらっしゃいますね。
白坂:高校の時に阪神大震災があって…大阪で救助している人を見て、自衛隊って大事なんだなぁって思って入学しました。
川端:ではどうして、卒業後には自衛隊入隊ではなく他大学の大学院進学を選ばれたのですか。
白坂:ヘンリー幸田さんという、アメリカ弁護士になった方の『ビジネスモデル特許』を読みました。アメリカでは当時のAmazonのような、知的財産や特許を取得するIT業界が伸びてきていると知りました。その時、今後ITが必要だと思って、防衛大時代に弁理士の勉強を始めました。当時教わった先生が防衛大のOBだったり、他にも色々な出逢いも重なりましたね。それで、防衛大から横浜国立大に進学しました。横浜国立大では画像処理やAIの研究室で研究をして、それから富士フイルムに就職したんです。その後、東日本大震災明けに起業をしました。なので、今振り返ってみると、進路選択のきっかけって地震繋がりですね。
株式会社AI Samurai(旧ゴールドアイピー)起業
川端:起業へと踏み切った経緯はどのようなものだったのでしょうか?
白坂:元々弁理士をやっていて、特許申請業務に携わっていました。その中で、特許申請にまつわる国際的な不均衡を感じていたんです。例えば、最近では、中国での特許申請数は日本の6倍くらいあります。アメリカでは日本の2倍くらい。知的財産が6倍っていうのは、海外からも市場としての魅力が多いからです。一方で起業時の頃から、日本だと裁判で数億円の損害賠償の訴訟というのは滅多に出ませんが、中国だと数十億とか…アメリカほどじゃないですが、結構大きな額になるので、特許というのが大きな攻撃力になっているのが分かるんですね。日本だと特許を取得しても、お金はあまり取れないみたいになっています。
これに限らない話しですが、国家間で裁判や訴訟に対して損害賠償額の“不均衡”があるのは良くないんじゃないかなって思っていました。
川端:“不均衡”の弊害にはどんなものがあるのですか?
白坂:例えば、損害賠償額の高低によって外国企業の参入障壁や訴訟アクションのインセンティブが変わります。日本で、海外の有名企業を日本企業が訴えることって少なくなります。逆に日本企業が海外に入っていくと、バンバン訴えられちゃう。そういう不均衡を是正しないのは良くないと思います。
川端:御社の主力製品であるAI Samuraiは、それを解消したいという想いから造られたということですね。
白坂:そうですね。現在日本では、特許申請の約85%が大企業の出願なんです。企業全体の99.8%が中小企業なのに、彼らが15%しか出願していないというバランスの悪い構造になっている。それは前提として、特許を取得しても意味が無いと思われているからです。元々、アイデア力のある個人発明家や中小企業を守るための特許なのに、その効力が弱いと特許取得の意義が失われてしまいます。大企業は不況になるとコストコントロールの意識が高くなってしまう。リーマンショックの時にも、アメリカや中国ではそれをチャンスと捉え、スタートアップを支援し、特許の出願件数も伸びましたが、日本で減少してしまっている。これは、日本の特許出願は大企業がメインのため、どうしても不況ではコストを下げる方に行くんですね…。こういう時にAI技術の進歩によって打開できるのではないかと思っています。
中小企業の経営者は、オーナーとして決定権を扱う幅が大企業より大きいと感じています。そういう中小企業の発明をAIで評価をして、その評価結果をもとに、弁理士が特許申請できるモデルが安定的になれば良いなって。また、大企業に対してはAIの利用で、自動で特許の書類案を提案することで、特許書類作成の円滑化を実現できればと思います。
日本の知的財産の特許の出し方は、AIを使うことで発明者の頭の活性化になれば良いなとも考えています。
川端:発明者の頭の活性化ですか…!?
白坂:例えば、今だとチャットとかメールとか当たり前ですよね。昔はPCにポストイットを貼ってリマインドしてくれていた人がいたんですけど、今は殆どいませんよね。何でもチャットでリマインドできるじゃないですか。Eメールで書類を回すとかも、複数の工程があったのが今はIT化で簡単に済ませられる。そうすると仕事の効率は上がります。AIとかIT化が進むと効率化され、人間の業務はレスポンスのスピードを上げる必要があります。それによって業務効率の向上に加え、そこで働く人間の業務内容も活性化させることができる!ということです。
川端:なるほど…!現在課題となっている点はありますか?
白坂:発明の内容を入れるのって結局人間なので、AIとのコミュニケーションがミスマッチしてしまう…ということがあります。人間とA Iの関係性で難しいところは、人間がAIに寄り添うことが難しいということです。例えば、誰か好きな人を相手に30分喋るのって簡単ですよね。でもそれがアバターみたいなAIだと難しい。AI相手に喋るのって、大体数分が限界なんですよ。AI Samuraiのインプットでも、数分が限界です。AIになると人はコミュニケーション不足になるということです。そのため、如何にそこを克服させるか、人間側のインプットを引き出せるようにするかという闘いがありますね。
経営者としての役割
川端:いざ事業をスタートされ、目覚ましいご発展が目を惹きますが、一方でCEOとして困難を感じたことはないのでしょうか?
白坂:私は元々弁理士だったので、特許については詳しいですけど、会社の資金調達はやったことがありませんでした。そのため、資金調達をどうやってやったら良いかが、知識もなければ最初は全然分からなかったんですよ。ただ、投資家へのプレゼンの度に厳しく指摘や助言、アドバイスを受けたお陰で、それで資金調達が最終的にできましたね。
CEOの役割の1つであり、最もやるべきことって“資金調達”だと思っているので、その点では試行錯誤しました。
川端:経営計画や事業計画のプレゼンなどですね。
白坂:そうですね。でも事業計画は、発足当時からだとだいぶ変えちゃったりもしています。
川端:資金調達のタイミングは決めていらっしゃるのでしょうか?
白坂:ビジネスの進捗に応じて、進めてはきました。
川端:今御社は、上場を視野に入れていらっしゃいますね。
白坂:そうですね。
マザーズの名称が「グロース」に変わる予定で、一方で、最近はIT関連株が上がってきています。DX(デジタルトランスフォーメーション)やAIの活用がアメリカでは盛んに出てきているので、日本でも徐々にそうなりつつあり、さらに加速すると予測しています。
川端:それにあたって難しさを感じているところはありますか?
白坂:日本に限った話ではありませんが、AIを導入する際には、AIを評価しようとする人が多いのですが、立場によってAIの評価は変わるという点です。例えば、発明者相手にAIが「特許取れるよ!」って言うと喜ぶし、「取れないよ!」って言うと普通に悲しむんです。でも、同じ内容を知的財産部、弁理士の方に見せると、「特許取れるよ!」って言うと“このシステム大丈夫?”ってなる。「取れないよ!」っていうと“このシステムはちゃんとしている良いシステムだな”って褒めるんです。
AIは同じ結果でも、立場によって評価が変わってしまうということなんですよね。そのような点を踏まえ、AIの開発を推進していきたいと思います。
川端:常に挑戦的で、社会構造や国に対しても関心を高く持っていらっしゃる白坂さん!
白坂:そうですね…日本がより良い国になってほしい、独立した国としてもより良くなってほしいという思いがあります。
川端:その性質が、現代の日本の知財取扱いの現状を作ったというお考えになるからこその、今のご活躍ですね。ご自身のYouTubeチャンネルでも、次世代に向けてメッセージを語られる姿勢など印象的です。
白坂:起業について言うと、やはり20代-30代の若い人が頑張ってほしいというのはあります。知識と経験も大事ですが、運や勢いも大事だし、やっぱり若い人には頑張ってほしいですね。
今後は教育を担いたい
川端:ご自身の、今後のライフプランも聞かせてください!
白坂:今は、北陸先端科学技術大学大学院の博士課程で社会科学の手法を用いて「弁理士とAIの関係について」を研究をしています。それで、会社でもアカデミックの考えを上手く活用していきたいと考えています。
川端:MBAの取得もお考えですか?
白坂:今は博士後期課程に在学なので、考えてないです。今こうして研究していること、そして元々の知的財産の分野での活動や他の弁理士業務で、自分が経験したからこそ皆に伝えられるものがあると思うし、大学院を卒業後、将来はアカデミックな分野でも次世代の人に教育に関する事業が出来たらと考えています。職業の中で、教育が最も尊いと思っているので。それに勝る職業ってないと思う。こういった考えがあるからこそ、私は教育という分野を担いたいと考えていますね。人を育てるって、人類にとって一番大切であり難題かなって。
終わりに
人を育てたい!と語るその眼にも、教義的な威圧感ではなくキラキラとした少年のような輝きが絶えない白坂さん。優れた経営者として、その手腕で他社から抜きんでていることはもはや前提であり、やはり魅力のある経営者というものは、自分や自社の枠を超え、広く先を見据えた姿勢で人を惹き付けるものだと納得させられます。飽くなき目標を掲げながら知的好奇心の向こう側へと恐れることなく投身し、ボスではなくリーダーとして皆を率いて行かれるお姿はまさに“侍”。白坂さん、本日は貴重なお話をいただき、本当にありがとうございました。
株式会社AI Samurai
代表者 | 白坂 一 |
設立年 | 2015年9月(前身:株式会社ゴールドアイピー) ※2019年1月 現社名に商号変更 |
本 社 | 東京都千代田区大手町一丁目6番1号 大手町ビル4F |
資本金 | 4億9,978万円(2019年7月31日現在) |
URL | https://aisamurai.co.jp/ |