いわゆる典型的な会計事務所とは一線を画すAGSグループの株式会社AGSコンサルティングは、税務・会計業務を起点に、マネジメントサービス・事業承継支援・企業再生支援・IPO支援・M&A支援・国際業務支援といった幅広いコンサルティング業務を展開している、日本では他に殆ど類を見ない会計事務所です。
日本一のアカウンティング・ファームを目指して、独立系として最も良質なコンサルティング・サービスを提供する専門集団を率いるのは、福岡県ご出身で早稲田大学を卒業後、公認会計士・税理士としてセンチュリー監査法人(現 新日本監査法人)を経た後、AGSコンサルティングに転職し、弱冠40歳で代表取締役社長に就任された廣渡嘉秀(ひろわたり よしひで)氏です。
今回は会社のあるじインタビュアー南が、その生い立ちから経営の極意まで、本懐のところを深堀りしながら伺って参りました。
福岡で見た夢、映画監督
南:本日は、株式会社AGSコンサルティング 代表取締役社長 廣渡嘉秀様に、経営者としての心意気における本音の部分をお伺いしたいと思います。廣渡社長、どうぞ宜しくお願い致します。
廣渡:こちらこそ、どうぞ宜しくお願いします。
南:まず、ご出身の福岡県では、どのような子ども時代を過ごされたのでしょうか。
廣渡:福岡市と北九州市の間にある郡部の出身で、田舎生まれ田舎育ちです。実家は専業農家でした。当時は既に兼業農家が増えており、専業は珍しかったです。祖父母と両親がいちごを栽培していました。もう止めてしまいましたが。いわゆる今の「福岡あまおう」です。福岡内陸部だけでなく、玄界灘の海沿いにもいちご農家は多かったのです。
南:専業農家だったのですね。
廣渡:専業農家としていちごとお米を作っていました。珍しかったと思いますよ。高校で北九州に行った時も田舎者扱いされましたしね。
南:ということは、子どもの頃の将来の夢は、農業ではなかったのですか?
廣渡:それはなかったですね。子どもの頃は農家以外をやりたかったです。反発心というか、農家以外の選択肢を強く望んでいました。もちろん(農業をしていた)父は尊敬に値する人でした。ただ、無理に継げとは言わなかったですね。父自身が農家を継がされた経験があったので、私に対しては、勉強して自分なりの道を切り開いて行きなさいと。父は本当にさばけた人でした。
南:お父様は先見の明があって、進んだ考えをお持ちだったのでしょうね。
廣渡:そうですね、周りの農家では後継ぎの話題が当然のように出ていた中で、父は立派だったと思います。いわゆる田舎の常識が好きではなかったのでしょうね。農家を継がなくていいから、もっと活躍しろと。その性格は自分にも遺伝している気がします。
南:ということは、その頃の将来の夢は、すでに公認会計士だったのですか?
廣渡:実は、映画好きの兄の影響で、映画監督になるのが夢でした。それなら東京へ行って演劇が盛んな大学へ、と早稲田大学を選びました。商学部を選んだわけではなく、現役でたまたま受かったからです。大学では映研に入り、映画撮影やシナリオ制作に没頭していました。
南:すごい、本格的ですね。
廣渡:しかし、自分の限界も見えました。映研には映像作家並みの仲間もおり、彼らの類まれな思考回路やクリエイティビティを間近に見ていると、彼らには勝てないなと。そこで、大学3年の頃から進路について考え始め、バブルだったので大企業のサラリーマンが王道でしたが、自分は少しあまのじゃくなところがあり、そういう気になれず、商学部なら会計士資格が一番だと思い、目指すことにしました。
南:映画監督から公認会計士とは、またユニークな転換ですね。
独立を胸に秘めた公認会計士時代
南:そして、公認会計士に合格されるわけですが、その後どのような経緯で現在の株式会社AGSコンサルティングに入社されたのでしょうか。
廣渡:まず、1990年に大学を卒業後、同年10月に会計士試験に合格し、センチュリー監査法人(現 新日本監査法人)に就職しました。その後、1994年に今の(株)AGSコンサルティングに転職しました。
会計士の王道である大手監査法人で過ごした4年間は多くの経験を積むことができました。ただ、会計士にとって本来の業務である監査自体は、私にとって面白い仕事とは思えませんでした。実は4年で監査を学び、今の会社で税務や実務を学んだ後、いずれ独立するつもりでした。
南:ということは、AGSコンサルティングの持つ、税務・会計業務にとどまらない幅広いコンサルティング業務は、廣渡社長ご自身が入社後、事業展開されたのでしょうか。
廣渡:そうですね。入社当時は、既に38名が所属する典型的な会計事務所でしたが、税務・会計業務以外にも少しコンサルティング業務を行っていたので、そこに惹かれて入社しました。ただ、26歳の入社以来、独立の計画を忘れるくらい忙しい日々でした。創業者でありオーナーの虷澤(かんざわ)会長が、入社当時から比較的自由にさせてくれ、業務を広げることに対しても背中を押してくれたので、特に20代は寝る間を惜しんで働き、様々な業務に携わることができました。
あれから26年間経ち、現在では430人の大所帯になりました。結局独立はしませんでしたが、かなり自由にさせてもらえたからこそ、独立を忘れてしまうくらい、当社での仕事に没頭したということでしょうね。
南:でもきっと、廣渡社長の独立構想は、結果として今の仕事に生かされたのですね。
廣渡:そうですね。それに加えて、当社があまり ザ・会社 という組織ではないので、自由にさせてくれた上に、良い同僚や仲間にめぐり合えたことも大きかったです。同年代の若手メンバーと一緒に、この会社を大きくしていこうという夢を語り合ったりできましたからね。
南:夢を語ることやチームワークは、映画製作にも通ずるような気がします。
御社事業が元々持つ強みと、廣渡社長ご自身のユニークな強みが掛け合わされて、幅広いコンサル事業を展開する今の御社があるのでしょうね。
廣渡:確かに、自分自身は会計士のわりに数字に強くないですし、数字がそれほど好きでもなかったです。会計業務自体は自分にフィットしていましたが、それよりもクリエイティビティを生かしてビジョンを描いたり、シナリオや事業計画を作成したりすることの方が好きでした。そういう部分が、この会計事務所の元々持つ、会計事務所らしくない素養とマッチしたのでしょうね。
南:なるほど、廣渡社長のクリエイティビティが生かされてきたこと、よく分かりました。
社長就任後すぐに訪れた大きな試練
南:一方で経営というのは、常に順風満帆というわけには行かないと思います。社長に就任されたのが2008年、まさにリーマン・ショックが起きた年でした。それから12年、数々の困難や試練を乗り越えてこられたとお察しいたしますが、その中でも印象に残るエピソードをお聞かせ頂けますか。
廣渡:1999年に東証マザーズとナスダック・ジャパンが創設され、ベンチャーブームがやって来ました。その頃からAGSではスタートアップベンチャー支援を行っており、相当実績があります。現在でも、ベンチャー支援は当社の主力サービスになっています。
1999年~2008年はITバブルやIPOバブルで勢いが良かったため、当時社長の虷澤会長から、このままベンチャー支援事業を勢いよく引っ張ってほしいと社長のバトンを引き継ぎました。2008年3月、私が40歳の時です。
ところがその直後、同年9月にリーマン・ショックが起こり、お客様のベンチャー企業が軒並み潰れてしまいました。100人程の所帯になっていたAGSの社長として、内心、自分は運が悪いと思っていました。ただ、それは決して表には出しませんでした。
運のない人は経営者をやるべきではないし、「ツいていない」と口に出すような経営者は商売を辞めた方がいいと思います。どんな困難に直面しても「俺は運がいい」と言える人や、過去の失敗があるからこそ今がある、とマイナスを語れる人が経営者に向いていますね。
つまり、運を引き寄せている側面があるということです。マイナスなことばかり言っていると本当にマイナスを引き寄せてしまうので、お客さんに対しても、それは絶対言わない方がいいと伝え続けていました。
そんなわけで、当社は50年になりますが、連続増収が止まって売り上げが落ちたのはその2年だけでした。
南:かなり早くに回復されたのですね。
それは経営者として迅速な決断を行われたからこそだと思いますが、例えば、過去に会計士としてお客様から得た教訓が、決断のヒントになっていたりするのでしょうか。
廣渡:そうですね、お客様に提案してきた立場として学びがあるし、また訓練にもなっていますね。窮地に追い込まれた際には、意外とシンプルが一番です。当社の場合のシンプルとは、メンバーのマインドのことですね。人が行うサービスですから、皆が大丈夫だと信じ、明るい気持ちで業務を遂行すれば、業績は必ず回復するのです。
2008年当時、全社員にシンプルなメッセージを送りました。会社が潰れるわけじゃないし、逆に試練があった方が良いじゃないか、だから皆で元気を出して頑張ろうと。
そうやって、皆のやる気のベクトルが同じ方向を向くと、外部からの印象も良くなり、仕事が前向きに増えていくんですね。
当時の看板商売であったIPO支援やM&Aは冷え込みましたが、一方で、マイナスの時期だからこそ積極的にやろうと考え、あえて拠点を大阪・名古屋・福岡にも広げました。そして、海外展開を目指して国際事業を立ち上げました。現在ではシンガポールに支社があり、国際部門には40人もの人員を配置しています。今となっては、まさに真逆の発想が功を奏したということですね。また、当時まだ殆どなかった再生業務にも進出しました。お客様の再生を行いながら、当社も一緒に再生しようと考えて。
南:大変参考になるリーダーとしての決断力をお聞かせ頂き、本当にありがとうございます。
日本一のおもてなし会計コンサルを目指して
南:これまでも節目節目にご自身で決断を行い、多くの夢を叶えて来られたと思いますが、今後の夢や目標についてお聞かせ頂けますか。
廣渡:当社を含むAGSグループは、「マネジメントサービス」をモットーにしています。中小企業の社長といったマネジメント層を傍で支えるイメージです。けれども経営をコンサルするのではなく、管理の弱い部分を補い、その結果、会社が伸びることを目指しています。つまり、マネジメントサービスとは、経営管理全般に関するコンサルティングサービスという概念です。
中小ベンチャーのお客様に二人三脚で会計コンサルを行うと、とても感謝されるんですね。その実感値が良かったので、マネジメントサービスで貢献し、日本を変えるくらいの会社になることが野望です。これを、AGS way では「日本一のアカウンティング・ファーム」と表現しています。単なる会計事務所を超え、マネジメントサービスを提供できるファームというイメージです。
日本には会計事務所が五万とありますが、そこに気づいている会計事務所が殆どないことに目を付け、始めました。この考え方が浸透して、日本で最も存在感のある会計コンサル会社になれると良いなと思います。
また、以前は、業界の構造にも課題がありました。平均年齢60歳位の個人の税理士事務所と大手監査法人に二極化しており、間が全くない業界だったのです。病院に例えると、クリニックと大学病院しかない状態です。けれども患者さんが一番行きたいのは、近くにあって様々な科を有する総合病院ですよね。まさにそれが、会計コンサル業界の課題だったので、そこをやりたいと思ったわけです。
そこで、課を分けて、人の層を厚くし、監査法人並みの勉強をしながらも、お客様に対するホスピタリティを用意する必要がありました。
南:なるほど、経営層に寄り添って伴走するサービスを「マネジメントサービス」としてこれからも展開してゆきたいということですね。
廣渡:そうですね。やっている自分たちも楽しいし、お客様もそのサービスが良いからAGSと付き合いたいと言ってくれて、そこにやりがいを感じました。
南:そしてそれがまた、従業員のモチベーションや働く幸せにつながっていきますよね。
廣渡:まさに、スタッフ皆がやる気になっている病院は見ればわかります。
働いている人が生き生きしていたり、高いホスピタリティで感じが良かったり、説明が分かりやすかったり。それと似ていますよね。お堅いと言われてきた会計コンサル業界でも、当社のメンバーが皆ホスピタリティを持てば、人気が出ると思ったのです。
南:心からサービスを提供したいと思う気持ち、やはりビジネスは人対人であるということが改めて分かりました。ありがとうございます。
試練を糧にする心意気を
南:最後に、リーマン・ショックという試練を乗り越えられた廣渡社長より、今年のコロナ禍で大変な思いをされている中小企業の経営者の皆さまに向けて、エールを送って頂けますでしょうか。
廣渡:大企業と異なり、中堅・中小企業やスタートアップベンチャーは、自分の努力や考え方次第で絶対に変えられるんですね。そして運がいい人は、やはり自分で運を引き寄せています。本気で頑張れば、良い循環を呼び込めるのです。誰もがビジネスを成功させたいわけだし、裕福になりたいわけだし、努力して結果に結び付けられるのが、中小企業の良いところだと思います。
だから、リーマン・ショックであれコロナウイルスであれ、自分次第であり、努力は必ず報われるんです。成功したいと思って始めた情熱を忘れずに貫けば、絶対に上手くいきます。
大企業には難しいですが、中堅・中小企業は工夫できるし、アイデア1つでマイナスをプラスに変えることもできるのだから、それを是非されたら良いのではないでしょうか。
南:本日は、本当に素晴らしいお話をありがとうございました。
終わりに
お堅いイメージの公認会計士であり会計事務所の厳しい経営者、というセオリー通りの先入観はインタビュー当初から見事に覆されました。いつ何どきも夢を胸に秘めながら、目の前の目標を着々と具現化し、お客様に寄り添い、社員を励まし、リーダーとして次の運を引き寄せる。その背後には、人知れず積み重ねた並々ならぬ努力のあることが窺い知れます。情熱を込めてご自分の言葉で丁寧に語るお姿から、経営者の本懐があふれ出していました。
株式会社AGSコンサルティング
代表取締役社長 | 廣渡 嘉秀(ひろわたり よしひで) |
設立年 | 1988年(創業:1970年) |
本社 | 東京都千代田区1-9-5 大手町フィナンシャルシティ ノースタワー24F |
資本金 | 3,500万円 |
URL | http://www.agsc.co.jp/ |